7. ヴィンチェンツォ・ガリレイ

ヴィンチェンツォ・ガリレイ

1581年、イタリアのフィレンツェで『古代と現代の音楽についての対話』[1]という著作が出版された。作者は、音楽理論家ヴィンチェンツォ・ガリレイ[2] 、かの有名な天文学者ガリレオ・ガリレイの父である。

彼は、フィレンツェの音楽家と詩人のサークルである「カメラータ」の一員であった。カメラータは古代ギリシアの音楽の復興に強い関心を持っており、その結果「オペラ」という新ジャンルを生み出すことになる。ヴィンチェンツォの音楽理論は、オペラで用いられる音楽にも影響を与えていた。

彼の著書には16世紀末のイタリアで知られていたアイリッシュ・ハープの実像について描かれている。

 

「今日のイタリアで用いられている弦楽器に、まずハープが挙げられる。(中略)この非常に古い楽器は、ダンテの言うように、アイルランドからイタリアにもたらされたものである。かの地では精巧なハープが数多く製作されており、この島の人々は何百年も前からこの楽器を演奏している」。

 

ここに現れる、ダンテとは言うまでもなくフィレンツェの詩人ダンテ[3] を指している。ハープがアイルランドからイタリアにもたらされたという説は、いささか事実誤認のように思われる。しかし、ダンテの時代にすでにアイリッシュ・ハープがイタリアで知られていたことは十分に考えられるだろう。

続けて、アイリッシュ・ハープの弦について次のように書かれている。

 

「彼らが演奏するハープは、我々が用いている通常のものよりはるかに優れており、通常は真鍮弦が張られている。高音域の数本にはチェンバロと同様に鋼鉄が用いられる」

 

このように、弦の素材がガット弦ではなく金属弦であったことが、アイリッシュ・ハープの特徴として認識されていた。また、用いられる素材が真鍮だけではなく、鋼鉄も用いられていたことにも着目したい。さらに、ヴィンチェンツォはアイリッシュ・ハープ奏者について次のように記録している。

 

「アイリッシュ・ハープ奏者は両手の爪をひじょうに長く伸ばす習慣があり、それをスピネットの弦を弾くジャックの羽軸のように人工的に削り、整えている」

 

爪を長く伸ばすことも、アイリッシュ・ハープに特有の演奏習慣だった。しかも、ただ伸ばすだけではなく、それを美しく削っていたことがわかる。スピネットとは小型のチェンバロであり、鍵盤を押すとジャックという部分が動き、それに取り付けられた鳥の羽根の軸が弦を弾く構造になっている。つまり、アイリッシュ・ハープ奏者は、爪を針のように細く尖らせていたのである。

この後、弦の数と調弦法についての叙述がある。

 

「弦の数は54本か56本、多いもので60本である。(中略)私は数か月前に、アイルランドの由緒ある貴族からこのハープの調弦法の図を入手した。慎重に調査した結果、数年前にイタリアにもたらされた二列弦ハープと同じものであることが判明した」

 

現存する19世紀以前の金属弦アイリッシュ・ハープの弦数は29弦から37弦程度であり、60本という弦数は明らかに多すぎる。その理由は、ヴィンチェンツォも述べているように、このアイリッシュ・ハープが二列に配置されていたからに他ならない。彼は、58弦のクロマティックに調弦されたアイリッシュ・ハープの調弦法を図示している。それは、最高音がD4で最低音がC2(チェロのC)、すなわち4オクターヴの音域をもつ楽器だった。もう少し詳しく説明すると、高音域(D6からD4まで)は奏者から見て右側にBフラットを含むダイアトニックの調弦が行われており、左側には C#、G#、F#、Eb の派生音を含む調弦が行われている。それよりも低い音域はこれと逆で、奏者から見て右側には派生音が含まれ、左側はダイアトニックの調弦が行われている。

このようなクロマティック・ハープは、ヴィンツェンツォも述べているようにイタリアでも演奏されていたものであり、モデナのエステ美術館に美しい実例が残されている。16世紀後半のヨーロッパにおけるハープの改良の影響を受けて、半音が演奏できるアイリッシュ・ハープが製作されるようになっていたのである。


[1] 『古代と現代の音楽についての対話 Dialogo della musica antica e della moderna

[2] ヴィンチェンツォ・ガリレイ Vincenzo Galilei (1520- 1591)

[3] ダンテ Dante Alighieri (1265 – 1321)

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