いまさら自己紹介

いまさらなんですが、私の自己紹介の記事を書いておこうかなと思います。どんな経緯でハープと出会い、現在に至るのかをまとめてみました。

私がハープに出会ったのは、今からちょうど30年前、15歳の時でした。阪神大震災の後くらいだったと思います。地元・京都で、白髪の男性が膝に小さなハープを乗せて弾いているのを見て、かっこいいと思ったのがきっかけでした。

その方に教えを請い、最初はナイロン弦の小さなハープから始めて、床置きタイプのネオアイリッシュハープ、オーケストラに入ってるペダルハープへと学びを深めていきました。

師匠の雨田光示先生は、非常に厳しく、でも本当に音楽を愛する素晴らしい方でした。技術的なこともなんですが、それ以上に芸術家としての生き方やミュージシャンシップを叩き込まれました。ある日先生から「君は音楽の本質が分かっていない」と言われたことがありました。おそらくそれは、誰も知りえないし、たどり着けないところにあるのかもしれません。ただ、そこに向かって歩みつづければ、少しでも近づくことはできるのではないでしょうか。

「音楽の本質とは何か」

雨田先生のシンプルな問いかけが、私の人生に意味と目的を与えてくれたと思っています。

とりつかれたかのようにハープの世界にのめりこんで、高校は1年でやめてしまいました。実はその高校で、私の席の後ろに座っていたのが、のちに妻になる人でした。その後、2002年頃に再会し、彼女が飼っていた白い猫・シナモンとも出会いました。そこからいろんな運命が重なって、今の生活が始まりました。

時間を戻して、90年代はインターネットがそこまで普及してなかったのですが、サイモン・チャドウィックという方が、ウェブサイトに金属弦ハープの情報を詳しくまとめてくれていました。それで、アイリッシュ・ハープというのは元々金属弦が張られていて、千年前くらいから演奏されていたけど、19世紀には伝統が途絶えてしまったことを知りました。この今ではなくなってしまった「幻の金属弦アイリッシュ・ハープとはどんな音だったのか、弾いてみたい」と思いました。

その後、東京の金属弦ハープ奏者の坂上真清先生の門を叩き、アイルランドの伝統音楽を学びました。坂上先生の元ではナイロン弦ハープを学んでたんですが、どうしても昔の金属弦ハープのことを知りたい、弾きたいという思いが強くなっていきました。

技術的なことは誰にも学べないので、だったら自分で調べて研究したらいいだろうと思い、2000年から明治学院大学で音楽学という分野で資料研究をはじめました。卒業論文ではアイルランドの盲目のハープ奏者カロラン、修論では16世紀ウェールズのバルズ音楽を記した『ロバート・アプ・ヒュー手稿譜』、博士論文では18世紀アイルランドのハープ音楽について書きました。

10年間の研究で気づいたのは、金属弦ハープの伝統が19世紀末に途絶えてしまった背景には、すでに18世紀後半の段階で、独自の音楽美意識が失われつつあったということでした。

たとえば、盲目のハープ奏者ドミニク・マンガンは、
「楽器のすぐそばまで近づかないと聴こえないような、ささやくような音色で演奏していた」という記録があります。でもそのころは、大きな音でうるさくかき鳴らすスタイルが主流になっていて、彼の奏法は時代遅れとされていました。その描写を見て、アイルランドの人々も遠い昔に忘れてしまったその「ささやくような音色」の美意識を追求しよう、それを自分の演奏様式に採り入れようと思いました。

学生、院生時代に金属弦ハープの復興に取り組む方々との出会いがありました。90年代からウェブサイトをまとめてくれていたサイモン・チャドウィック、金属弦ハープの奏法のメソッドを確立したアン・ヘイマン、ビル・テイラー、アイルランド・ヒストリカル・ハープ協会会長のシボーン・アームストロング。その出会いを通して、私も日本でこの綺麗な音のハープを広めようと決意し、演奏会やワークショップを開き、横浜と京都に教室を開講しました。

はじめはスコットランドのハープを輸入して教えていたのですが、あるとき、ふと、「自分で作ってみたら、資料研究だけではわからない金属弦ハープのことが、もっと深く理解できるのではないだろうか?」と思いました。木工未経験で、周りからも「危ないからやめとけ」「無理やろ」と言われましたが、どうしても作りたかったので、挑戦してみました。それでやはり、実際に作ってみると、本を読むだけではわからないことを感覚的に理解することができました。改良を重ねるうちに、気づけば今では350台以上を作ってきました。今まで世の中になかった一風変わった、「けったいな」オリジナルハープも多数デザインして作ってきました。

教育活動では、『初学者のための金属弦ハープ教本』をつくったり、『20弦ハープのための366の曲集』を出版したりして、「こんなに小さなハープでも、これだけのレパートリーがあるのですよ」ということを伝えてきました。爪やピック、変則調弦を使う演奏技法や、特殊な設計のハープを開発して、臨時記号がついたアイルランド以外の曲も弾けるようにする実践的研究もやってきました。

長年「金属弦ハープのささやくような音色は録音や動画では決して伝わらない」と信じており、生音でのライブだけをずっと大切にしてきました。それは実際にそうなんですが、最近は少し考えが変わってきて、「自分でやってみたら理想の音を追い求められるのではないだろうか」と思い、去年から録音編集を研究して少しずつ音楽配信しています。

金属弦アイリッシュ・ハープの演奏と研究、指導、編曲、楽譜制作、楽器の設計と製作、録音、編集その他、はたから見たら、いろんなことをやってて、わけのわからない人にしか見えないでしょう。ただ、私としては、30年間ずっと「ひとつのこと」しかやっていないと思っています。それは、ハープの研究を通して「音楽の本質」を追求し、自分の芸術を完成させること。それ以外は、全部些末なことと思っていたらいつの間にかこうなっていました。

――30年前、京都で、小さなハープが私のことを見つけてくれました。
それ以来、ずっとその音色のささやきに導かれるように生きてきました。
これからも、その音のする方を追いかけていこうと思います。

☆新しく始めたポッドキャストのための自己紹介文からまとめました。


横浜・日吉と京都・北大路で金属弦ハープ、アーチドハープの教室を開講しています。

https://note.com/embed/notes/n81f21886a4e5

アイリッシュ・ハープの歴史についてはこちらでまとめています。

https://cinamon.thebase.in/p/00006

オンラインショップ「シナモン」でオリジナルハープや曲集などを販売中。

https://cinamon.thebase.in/

Apple Music, Spotify, Amazon Music 他で音楽配信しています。

https://www.tunecore.co.jp/artists?id=975315

ハープ演奏動画を毎日18時にYouTubeで公開しています。

https://www.youtube.com/@telynmoto