全楽曲編曲・解説(寺本圭佑)
- カナリー Canaries
スペイン領カナリア諸島にその名の由来がある舞曲で、17世紀ヨーロッパで流行。元々スコットランドのリュートタブラチュア、ストラロッホ手稿譜(1627-29)に記録されていた作品。
- アメイジング・グレース Amazing Grace
イギリスの奴隷商人で後に牧師となったジョン・ニュートンが1772年に作詞した讃美歌。
- あの晩を覚えている? Do you remember that night?
18世紀アイルランド南部の歌。婚礼の日にシャノン川で溺死した新郎のことを歌っている。
- 舟人 Fear A’Bhata
スコティッシュ・ゲーリック語でルイス島の漁師への恋を歌った18世紀末の曲。
- スィオ・ガン Suo Gân
ウェールズの子守歌。クリスマスに歌われることもある。カロランアカデミーで初期に習う曲。金属弦ハープ特有の装飾技法も用いられている。
- 夏が来た Thugamar fein an samhradh linn
夏至の時に歌われていた曲。18世紀アイルランドの盲目のハープ奏者ヒュー・ヒギンズ (c.1737-1796) のレパートリーだった。
- モリー・マローン Cockles and Mussels [Molly Malone]
アイルランドでもっとも有名なバラッド。貝や魚を売り歩いていたモリー・マローンが病気で死んでしまい、その幽霊がまださまよっているという内容の歌。ダブリンにはモリー・マローンの像が建てられている。
- スィオ・ガン Suo Gân
- 鷲のさえずり Fead an iolair, The eagle’s whistle
アイルランド南部のオドノヴァン家のマーチ。4拍子と3拍子のヴァージョンが残されているが、今回は3拍子のヴァージョンをゆっくり演奏。20世紀初頭に歴史家ジョイスが採譜。
- モリー・マカルピン Molly MacAlpine
17世紀後半に活躍したアイルランド西部スライゴー出身のハープ奏者ウィリアム・コネランが作曲したラブソング。カロラン (1670-1738) はコネランの作品を敬愛しており、「モリー・マカルピンを書いたコネランのような作曲家になりたい」と語っており、自分が作曲したどの曲よりも美しいと考えていた。19世紀初頭は「カロランの夢」という別タイトルで知られていた。
- セリア・コネラン Celia Connellan
ウィリアムの兄弟トマス・コネランによるラブソング。ダニエル・ブラック(1717-c.1796) ら18世紀のハープ奏者たちに好んで弾き歌いされていた。今でもアイルランド西部のコネマラ地方で歌い継がれている。
- あの晩を覚えている? Do you remember that night?
- ラーク・イン・ザ・クリア・エア Lark in the clear air
西部スライゴー由来の19世紀の歌で現在でもよく歌われる。様々なヴァージョン違いが存在する。
- 戻っておいで、甘美な愛が Come again, sweet love
英国のリュート奏者ジョン・ダウランド (1563-1626) の歌曲。ダウランドは1612年に英国のジェームズ1世の宮廷に仕えていた。この宮廷には、アイルランド人ハープ奏者コーマック・マクダーモット (d.1618) がおり、互いに面識を持っていたかもしれない。当時ダウランドの曲は大流行していたので、金属弦ハープ奏者たちがこの曲を演奏していたと考えても不自然ではない。
- メランコリー・ガリヤード Melancholy Galliard
ダウランドの作品。この時代、半音階が演奏できる金属弦アイリッシュ・ハープが発明されていた説がある。だが実例は現存せず、どのような楽器だったのか、調弦法も定かではない。一般的な金属弦ハープはダイアトニックに調弦されているため、ダウランドなどの臨時記号を含む曲を演奏するときには工夫が必要だ。ひとつの解決法として、オクターヴごとに異なる調弦(スコルダトゥーラ)を行い、旋律をオクターヴ差で演奏することが考えられる。この編曲でも特殊な調弦を行っており、爪の裏で半音を上げる特殊技法も用いている。
- 流れよ、わが涙 Flow my tears
ダウランドの代表作で、当時のヨーロッパで大流行した。はじめは1596年に「涙のパヴァーヌ Lachrimae pavane」というタイトルで発表された。
- ファニー・ディロン Fanny Dillon
カロランの作品。18世紀の盲目のハープ奏者パトリック・クイン (c.1745-aft. 1810) のレパートリーでもあった。ドリア旋法が用いられており、変拍子で書かれている。他のアイルランド音楽とは明らかに異なった様式であり、カロランが継承していた古いハープ音楽の残滓ではないかと考えられる。
- きらきら星変奏曲 Six Variations on “Ah vous dirai-je, Maman”
きらきら星を金属弦ハープ用に編曲。演奏中に音を変化できないハープのため、移旋という方法を取り入れて変化をつけている。古い金属弦ハープの曲で用いられていた変奏技法や通常のハープで用いられる技法を織り交ぜている。
- ゴーティエのカナリー Gaultier’s Canaries
ダウランドとほぼ同時代にパリの宮廷リュート奏者として活躍していたエヌモン・ゴーティエ (1575-1651) の組曲に含まれるカナリー。
- クロージャーズ・マーチ The Clothiers March, or Limerick lamentation
ハープ奏者マイルス・オライリーが1691年に作曲したリムリック・ラメンテーョンのヴァージョン違い。1912年にリムリックのフィドル奏者フランク・ロシェ (1866-1961) が出版した曲集に収録されている。8分の6拍子のジグが付随しているが今回は割愛。
- フラーへのフライト Flying to the Fleadh
ベルファストのイリアンパイプス奏者パトリック・ディヴィが作曲した8分の9拍子のスリップ・ジグ。ディヴィが南部ケリーで行われたフラー(フェス)に参加するときに飛行機で行こうとしたときに作られたとされる。優美な曲でハープでもよく演奏される。
- マクロイドのサルート McLeod’s salute
16世紀後半から17世紀前半に活躍した盲目のハープ奏者ローリー・ダル・オカハンの作品。ローリー・ダルはアイルランド北部出身で主にスコットランドで活動していた。
- エレナー・プランケット Eleanor Plunkett
カロランの作品として有名だが、1950年代に音楽学者オサリヴァンによって初めて出版されるまでは広くは知られていなかった。
- キャシェルをさまよう~ティーグをさまよう Carolan’s ramble to Cashel, Ramble to Teague
カロランは生涯を通してアイルランド中を旅し、各地の領主に詩と音楽をささげて生活していた。キャシェルやティーグはアイルランドの地名。後者はスコットランドでもWhen she came ben というタイトルでよく知られた旋律だった。
- アイルランドの古いプレリュード Feaghan Geleash or try if it is in tune
鍵盤楽器奏者、民俗音楽収集家バンティングが盲目の老ハープ奏者デニス・ヘンプソン(1695-1807) の演奏から採譜したプレリュード。かつては死者に送られる哀歌、ラメントには付随するプレリュードがあったという。「調弦があっているか試してみなさい」というタイトルが付けられている。
- 妖精の女神のラメントCooee en devenish [Cumha an dé-bhean sí]
バンティングが1802年と1808年に西部メーヨーのハープ奏者ドミニク・オドネルから採譜。1603年にハリー・スコットがガルトリム男爵ハシーのために作曲。スコット兄弟は16世紀末の有名なハープ奏者の一族でラメントの様式を確立したとされる。
- ミス・ハミルトン Miss Hamilton
カロランの友人コーネリアス・ライオンズが作曲した優美な作品。「ラズベリーの花」という別タイトルでスコットランドでも知られていた。
- 妖精の女王 Fairy Queen
19世紀の歴史家ハーディマンによると、カロランが初めに作曲したのはこの「妖精の女王」とされる。初出は1724年ダブリンで出版されたニール父子の曲集で、”Fairy Queen by Signor Carrollini” と書かれている。テーマと5つの変奏からなる。一部にカロランの次世代に活躍した盲目のハープ奏者エクリン・オカハンのヴァージョンを取り入れている。
- コール夫人 Mrs Cole

